生成AI(Generative AI)は、創薬の分野において新たな可能性を切り拓いています。これにより、新薬開発の効率化や成功率の向上が期待されており、日本の大学や研究機関でも積極的な取り組みが進められています。以下では、生成AIが創薬に与える影響と、日本の大学での具体例を挙げて説明します。
生成AIが創薬にもたらす革新
生成AIは、膨大なデータを活用し、新しい化合物を設計する能力を持つ技術です。この技術は以下のような利点を提供します:
• 効率的な化合物設計
従来の創薬プロセスでは、膨大な時間とコストを要していた化合物の探索や設計が、生成AIによって大幅に短縮されます。例えば、AI技術を用いることで、新薬候補物質の探索期間が数年から数ヶ月に短縮されることもあります。
• 多様な治療標的への対応
生成AIは、複数の治療標的に同時に作用する化合物を設計することも可能です。このアプローチは、副作用を軽減し、患者への負担を減らす「ポリファーマコロジー創薬」の推進に寄与します。
• 構造予測と最適化
タンパク質構造や分子間相互作用を精密に予測し、それに基づいて最適な化合物設計が可能です。これにより、副作用リスクの早期特定や薬効の向上が期待されています。
日本の大学での具体例
日本では、多くの大学が生成AIを活用した創薬研究を推進しています。その中からいくつかの代表例を紹介します。
名古屋大学
名古屋大学では、AI創薬プラットフォーム「Deep Quartet」を活用し、新たな胃酸抑制剤候補化合物をデザインしました。この研究では、X線結晶学や電子顕微鏡による構造解析とAI技術を組み合わせることで、既存薬よりも高いプロトンポンプ阻害活性を持つ化合物が創製されました。
昭和薬科大学とElix社
昭和薬科大学は、AI創薬企業Elix社と連携し、化合物プロファイル予測や構造生成AI技術を活用した新規化合物取得に挑戦しています。この共同研究は、有機合成化学や分子生物学など多分野の知識を融合させることで、従来困難だった標的タンパク質へのアプローチを可能にしています。
理化学研究所と富士通
理化学研究所(理研)と富士通は共同で、生成AI技術「DeepTwin」を開発しました。この技術は電子顕微鏡画像からタンパク質構造変化を予測し、新薬設計に必要な情報を迅速かつ正確に提供します。これにより、従来1日かかっていた予測作業が2時間で完了するようになり、大幅な効率化が実現しました。
京都大学
京都大学では、Preferred Networks社との協力で深層学習技術を活用した創薬プラットフォームを開発しています。この取り組みは、新規化合物探索や分子設計など創薬初期段階での効率向上に寄与しており、安全性評価などにも応用されています。
星薬科大学での具体的な取り組み
星薬科大学では、生成AIを活用した創薬研究が多岐にわたる分野で展開されています。その具体例をいくつか挙げます。
エピゲノム創薬
星薬科大学のエピゲノム創薬研究室では、エピジェネティクス(遺伝子発現制御)を基盤としたがん治療研究が行われています。生成AIは、エピジェネティックな変異による疾患メカニズムを解析し、それに基づく新規治療法の開発を支援しています。
データサイエンスとAI創薬
同大学では、データサイエンス研究室がAIやビッグデータ解析技術を活用し、新たな医薬品設計手法を模索しています。この研究室では、従来型の実験的アプローチとデータ駆動型アプローチを融合させることで、新しい創薬モデルを構築しています。
星薬科大学では、全学的に数理・データサイエンス・AIに関する教育の充実を図るべく、「HOSHI数理データサイエンスAI教育プログラム」を実施
微生物利用による創薬
さらに、微生物研究室では微生物の持つ未解明の能力を利用して、新しい化合物の発見と設計に取り組んでいます。生成AIは、このプロセスにおいて微生物由来化合物の特性予測や最適化に貢献しています。
フラグメント分子軌道法(FMO法)の応用
星薬科大学では、量子化学計算手法であるFMO法も活用されています。この手法は巨大分子(タンパク質など)を小さなフラグメントに分割し、その相互作用を解析することで、新規医薬品候補の設計に役立てられています。
課題と展望
生成AIによる創薬には多くの利点がありますが、一方で課題も存在します。例えば、高品質なデータセットの確保や倫理的側面への配慮が求められます。また、生成されたモデルや結果の解釈性・透明性も重要なテーマです。
それでも、日本国内外で進む産学連携プロジェクトや技術革新によって、生成AIは新薬開発プロセス全体にわたる変革をもたらす可能性があります。今後もこの分野での研究と実用化が進むことで、人々の健康と医療への貢献がさらに期待されます。
